2016年10月3日付け朝日新聞朝刊に記事が掲載されました。
事故などで繰り返されている子どもの死について考える「小さないのち」という企画。
読者から寄せられた意見などがまとめられています。
「同じような死を繰り返さない」を合言葉に、理解が広がることを願います。
■教訓生かす講座開講 長男を亡くし自ら事故予防に取り組む、吉川優子さん(45)
当時5歳だった長男の慎之介(しんのすけ)=写真左=は4年前、通っていた愛媛県の私立幼稚園でのお泊まり保育の川遊び中、増水で流され亡くなりました。
県や市、文部科学省に事故検証と予防策を訴えましたが、いずれも「再発防止のための検証の権限はない」との回答でした。幼稚園からは「話せない」と言われました。同じ園の保護者と現場に通って救急隊員や観光客など関係者に聞き取りし、独自に検証委員会をつくり、民事裁判も起こしました。
裁判はあくまで関係者の法的責任を追及する場だとは理解していましたが、教訓を生かして子どもを守ってほしいという私の強い思いはそこに託すしかありませんでした。
教育・保育施設などでの事故死、いじめによる自殺、虐待などの分野では担当省庁ごとに検証制度がありますが、管轄を分けず、すべての子どもの死を一括して検証する組織と制度が必要ではないでしょうか。
今もどこかで、事故や虐待などで命が失われています。夫と二人で社団法人をつくり、昨年、「子ども安全管理士講座」を開講しました。事故時の対応や予防策などを専門家が教え、今月と来月も講座を開きます。慎ちゃんを失った悲しみは消えません。だからこそ、起きるかもしれない死を防ぎたいのです。
■国主導で情報共有を 産業技術総合研究所・首席研究員、西田佳史さん(45)
情報を一つに集約し分析すれば、なにが危険なのかを抽出できます。
例えば私たちの研究所では、東京にある国立成育医療研究センターと協力し、病院を訪れた子どものけがの情報を2006年から登録してきました。約3万人分を読み解くと、自転車の後部座席の子どもの足がスポークに巻き込まれる事故が多いことがわかったので、後部座席下にカバーをつけるよう働きかけ安全基準が改定されました。電気ケトルによるやけど事故を受け、倒れても湯が漏れない製品が開発されました。
事故の原因がみえれば、企業や専門家などから知恵が集まり、テクノロジーの力とともに予防策が生まれます。これはけがだけでなく、事故などで亡くなった場合も同じです。しかし日本では病院や捜査機関などの組織は、事故状況などのデータ提供にまだまだ後ろ向きです。朝日新聞と専門家が分析した子どもたちの記録も、捜査情報ということもあって法医学者しか知り得ません。
国が主導的に動いて、情報共有できる法律を作り、子どもの死やけがを検証する新たな制度が欠かせません。メディアも、データが活用されないことでの不利益をもっと探るべきです。責任の追及だけでは、予防につながりません。「同じような死を繰り返さない」という合言葉を、真に実行する仕組みが必要です。
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