平成27年7月21日 神奈川新聞朝刊
子ども安全管理士講座の記事が掲載されました。
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子を守る「安全管理士」 事故犠牲者遺族が資格化
神奈川新聞 7月21日(火)7時0分配信
事故で子どもを亡くした親が、再発防止の思いを込めて創設した「子ども安全管理士」という認定資格への関心が高まっている。医療や工学、法律などさまざまな分野の専門家が協力。保護者や保育士など立場を超えた人たちが受講に集まり、子どもの安全を守る意識を共有している。
「単なる見守りには限界がある。ミスを許容したり、ちょっと目を離したりしても大丈夫な環境づくりが重要だ」。6月、東京都新宿区の会議室。子ども安全管理士の資格認定講座で、製品安全を研究する専門家が呼びかけた。
乳幼児の転倒事故では、転び始めてから倒れるまで平均約0・5秒。見守りだけで防ぐのは難しい。安全な環境や状況を整えるべき-。専門家は実験データを挙げて「事故前の対策のほうが社会的コストは低い。先生や保護者を守る方法でもある」と強調。小児科医や保育制度の問題点を研究する専門家も、必要な対策を訴えた。
8講座の受講とリポートの提出で一般社団法人「吉川慎之介記念基金」から子ども安全管理士の認定が与えられる。今年2月から3月にかけての第1期で、医療や工学、法律など各分野の専門家による講座が開かれ、81人の修了者が認定を受けた。
法人を創設した吉川優子さん(43)と夫の豊さん(45)は、2012年7月に長男=当時(5)=を失った。川遊びの最中に流された。私立幼稚園のお泊まり保育中だった。
園関係者は刑事事件で立件された。園を相手取った民事訴訟も起こした。「法的責任はおろそかにしてはいけない」と考えた吉川さんだが、一方で「対立関係から何が生まれるか」という思いも募り、再発防止への気持ちが強まった。
13年に勉強会を設け、子を事故で亡くした遺族と話し合いを重ねた。医師や弁護士らを招き、事故防止に必要な視点も学ぶ。得た知見を「一般の人にも伝えよう」と、認定資格の創設を思い立った。
講座には当初の予想を超えた人数が集まった。吉川さんは「多くの人に関心を持ってもらえたことに希望を感じる」。学童保育で働く受講者の女性(38)は「学んだ意見を職場で共有したい」と話す。
講座に協力するジャーナリストの猪熊弘子さんは、「子どもの安全について各分野の専門家が研究を進めているが、バラバラでは限界がある。それぞれの考察を複合的に学び、多角的に捉えることが事故予防につながる」と提言している。
受講には事前の申し込みが必要。受講料など詳細はホームページ
http://shinnosuke0907.net/
◆「責任追及に限界 啓発こそ」
子どもの安全を守る認定資格には、県内の遺族も期待を寄せる。法的責任の追及だけでは事故の防止に限界があるとの考えからだ。
大和市の男性会社員(40)は2011年7月、長男=当時(3)=を私立幼稚園のプール事故で失った。当時の担任教諭と園長が業務上過失致死罪に問われた裁判に参加し、「現場で安全対策が軽視されている」と感じた。独立した組織である私立幼稚園では事故対策を共有する仕組みが不十分という思いも強くした。
裁判では、現場にいて長男が溺れたときに目を離していた担任教諭に、「園児の注視を怠った」として罰金刑が言い渡された一方で、教諭を指導する園長の過失は認めず、今年3月に無罪となった。責任者の罪が認められてこそ事故の抑止につながると期待したが、刑事裁判の枠組みではかなわなかった。
男性は再発防止には「子どもに関わる立場の人に安全対策を徹底してもらうことこそ必要」と考えている。講座で遺族としての思いを語るなど、「子ども安全管理士」の養成にも協力している。「我が子の命を無駄にしないためにも、必要な知識を学ぶ取り組みが広まってほしい」
平成27年7月21日 神奈川新聞朝刊