平成28年2月18日 証人尋問が行われました。

2016年(平成28年)2月18日
松山地方裁判所41号法廷にて証人尋問が行われました。
(事件番号:平成26年(わ)第81号)

刑事裁判、証人尋問が終了しました。
今回は、
石鎚ふれあいの里の責任者、お泊り保育の引率教諭2名
大阪市立大学の教授、4人の証人が出廷されました。

石鎚ふれあいの里責任者の方からは、当時の天候について
他の保育園、幼稚園がお泊り保育で利用する際に
行っている事前打合せについて、
また、水中お魚観察会など
ふれあいの里で実施している川での活動などについて、
説明がなされました。

そして、お泊り保育引率教諭の
寺西佳代子氏と篠田ひとみ氏、
法廷での態度や印象が対照的でした。

寺西氏は事故後、西条聖マリア幼稚園を
年度末に退職し、
篠田氏は現在も、西条聖マリア幼稚園で
事務員として在職中です。

寺西氏は、慎之介の元担任ですが、法廷に入ると深く一礼。
私たちと傍聴席にも一礼していました。

篠田氏は、法廷内に入ると、誰に対してでもなく、
ひょこっと軽い感じの会釈をしていました。
私たち夫婦は、被害者参加制度を利用していますので
法廷では検察官の隣にいるのですが、
篠田氏は、私たち夫婦へは一瞥もくれず、
これまでも無視され続けている状況ではありますが
彼女の中には、まるで存在していないかのようでした。

当時の引率者5人が法廷に揃ったわけですが、
各々、向き合う姿勢がバラバラな感じで、
関係性に違和感を持ちました。

寺西氏からは、自分の言葉で誠実にこたえようという思いが伝わりました。
それだけに、
なぜ、これまで、私たちと一緒に向き合ってくれなかったのだろう?
という思いが募りました。

篠田氏は、慎之介が沈んでいく姿を見送った人ですが、
相変わらず、他人事な感じでした。
尋問では、怒りをあらわにしている表情と態度、
そして、増水後にとった行動説明の際、子どもたちに、
「きちゃダメ!戻って!」とジェスチャーで伝えたということを
再現する彼女の姿からは、不誠実さしか感じることが出来ませんでした。

検察の尋問では、教諭らが安全対策など
準備を何もしていなかったことや、情報共有もされていなかったこと、
そして当時、発熱していた園児がいたのに水着に着替えて
みんなと一緒に川遊びに参加していたこと、
子どもたちが寒がっていたこと、
範囲を定めず深い場所でも子どもたちが自由に遊んでいたこと、
バラバラに川を渡り始めたことなどが明らかになりました。

弁護人の尋問は、養成課程で安全教育はないという事や、
川遊びの注意や増水に関しても、幼稚園教諭は習う機会が無いし、
ライフジャケットが必要だという話も聞いたことが無い、
とにかく、安全の事や川が危険だということなどは、
誰からも教えてもらっていないということを確認していました。

習っていないことは
調べて学ぶということが当然のことではないのですか。
子ども達には、そのように教える立場ではないのですか。
習っていないことを
無責任に遂行してはいけないのではないのですか。

一般人はそのように考えます。

被告側の証人として出廷された
認知心理学専門の大阪市立大学の教授から
「後知恵バイアス」というバイアスについての説明がなされました。

事故が起きた事実を知っている状態で、
河川の濁りある写真を見たとき
「これは増水の予兆だ」と思ってしまいがちである。
事故の事実を知らずに見た場合は、
「これは増水の予兆だ」などと思うことはほとんどない。

こういう「後知恵バイアス」というものが人間にはあり、
当時の事故関係者、目撃者、捜査関係者にも影響を与えている。

との事でしたが。

当時、現場にいた証人たちは、写真を見ても、
「これが増水の予兆だと感じた」などという証言はしていません。
写真から、客観的に濁り始めだろうということが明らかになっただけです。

結果を知っていることにより
事件現場の状況証拠の見方が変わる?思い込みが生じる?
ということが「後知恵バイアス」の影響だというのならば、
全ての刑事裁判、事件、捜査機関、関係者に対して、
その影響を受けないためには、
どのような捜査や審理が理想とされるのか、
被告側の証人というネガティブな立場ではなく
研究者として、中立的な立場で科学的に、
改めて、しっかりとしたデータをもとに証明をし、
正式に提言を出していただけたら、
社会的に役立つのではないでしょうか。
と思いました。

この裁判のために、60人もの学生に参加をしてもらい
実験を行ったとのことでしたが、
この実験で使用されたデータでは、
この事故の被害者、死亡園児は3人となっていて、
学生らに提供している写真データについても適当で、
しかも、この裁判のために「初めて」実施した実験だということでしたし、
弁護人の方と、意思疎通や連絡がきちんと取れていなかった
という発言もありました。
リスク認知に関しては、専門外だとも。。。

弁護人の方が向き合っているのは、
この事件の本質的なものではなく、
検察なんだなという印象を受けています。
そして、クライアントは学校法人ロザリオ学園。
傍聴席にはクライアントたちが傍聴に来ています。

冒頭陳述でおっしゃっていましたが
刑事責任を問う事と、
事故の再発防止などと向き合うことは別なはずですから
裁判とは別に、立場を超えて、
「不幸で仕方なかった事故」として終わらせるのではなく
子どもの事故を未然に防ぐためには
どうすればよいかということについても
これを機に考えていただきたいと思います。
安全教育がないという事など、
法廷で問題提起されているのですから
ぜひ、裁判後も訴え続けていただきたいです。

次回は、3月3日、4日 被告本人尋問です。

尋問される順番は
1.近藤恵津子被告
2.村上玲子被告
3.越智亜里被告

法廷でしか再会することができなかった
この現状を、遺族や被害者家族、保護者が
どのような思いでいるのかなど
先生達は、考える余裕もなさそうです。
とても悲しく思います。

学校法人ロザリオ学園、西条聖マリア幼稚園が
守りたいものは何なのでしょうか。

守らなければならないのは
子ども達の命です。

被告本人尋問、
どのような証言であっても
しっかりと聞き留め、見つめたいと思います。

平成28年2月3日、4日、5日証人尋問が行われました。

2016年平成26年2月3日、4日、5日
松山地方裁判所で証人尋問が行われました。
(事件番号:平成26年(わ)第81号)

刑事裁判の証人尋問、前半3日間が終了しました。
11名の方々が愛媛県内をはじめ、中四国、関東や関西など、
遠方からも、この裁判のために証人として出廷をして下さいました。
皆さん、検察官や弁護人の質問に、誠実にこたえていました。

2月3日は、石鎚ふれあいの里へ観光に来ていた方2名と、
ふれあいの里のスタッフ2名の証人尋問が行われました。
事故当日、現場で通報や救命救助・捜索活動をしてくださった方々です。

慎ちゃんを発見したふれあいの里スタッフの方は、
川に沈んでいた様子について、目を閉じ、
言葉を選び一生懸命に説明して下さっていたのですが、
その後ろに見えた近藤被告元園長は「居眠り」をしていました。

村上玲子被告、越智亜里被告は、
慎ちゃんがうつ伏せの状態で沈んでいたところを引き上げ、
人口呼吸をしたが自発呼吸は見られなかった、
先生たちは誰もいなかった、という話についても、
真摯に耳を傾けるわけでもなく、表情一つ変えずに、ひたすらメモをとっていました。

救助活動をした4人の証言と当日の写真などから、
引率教諭は8人いたわけですが、誰一人、通報も救助活動も何もしていない事や、
川の中で遊ぶ範囲を定めず、子どもたちを深い場所でも
バラバラに遊ばせている状況などが明らかになりました。

証人の方々が、あの日、あの場にいなかったら、
被害はもっと大きなものになっていたはずです。

2月4日は、天候や川遊びの準備、増水のメカニズムについて等、
客観的な証拠についての証人尋問が行われました。

松山気象台の職員の方には当日の天気予報や大気の状態などについて、
事故当日、石鎚山で登山をされていた方からは、
山頂付近で激しい雨が降った状況について、
河川財団の方からは、川遊びの注意事項とライフジャケットや準備の重要性について、
愛媛大学名誉教授で水文学専門の先生からは、
川の増水メカニズムについて、尋問が行われました。

平成24年7月29日に事故当時とほぼ同時刻に、
ふれあいの里で現場の加茂川が増水する様子を撮影することができたのですが、
水文学の先生が証言の中で、この動画資料について触れられました。
29日の測水データから24日と同じような増水が発生したであろうという事が、
データグラフから確認することができたとの事でした。
29日の動画資料を確認していただけいたことが、遺族としては有り難く思いました。

この2日間の証人尋問から、
当日の様子と状況が明確になりました。

2月5日は、気象協会の職員の方から天気予報について、
西条市立ひまわり幼稚園の元園長からは、
ふれあいの里でのお泊まり保育の準備状況、中止の判断、
職員間での情報共有などについて、
同志社女子大の教授からは、幼稚園教諭の養成課程のシラバスについて、
幼稚園教諭に求められる安全に関する知識や意識について、
証人尋問が行われました。

西条市立ひまわり幼稚園の元園長先生は、
子どもたちの安全を第一に考えていることや心優しい人柄がにじみ出ていました。
先生の証言から、マリア幼稚園のお泊まり保育の準備や計画の杜撰さが明確になりました。

同志社女子大の先生は、被告側の証人でしたが、大変、勉強になりました。

幼稚園教諭が子どもの安全を守るというのは当然の事であり、
保育活動の安全を考える際、主に、園内、園庭での安全確保が大前提で、
自然活動という場合は、園内で植物を育てたりすることなどがそれにあたり、
園外活動というのは、近所の公園など管理できる範囲でしか行えないと考えていて、
川や海などでの活動は、園児にとって想定されるリスクが大きく広すぎるため、
そもそも、保育の中で、管理できないような活動を行うことは想定していない、
というような説明がなされました。
保育活動として、川や海などでの活動をするという点については、
もし、行うとした場合は、地域の方々や保護者も一緒に
多くの大人たちの見守りがあってということでなら
有り得るかもしれない、というような説明もありました。

幼稚園教諭の使命とは、子どもの命を守り育むことであることが
一番大切にしなければならない理念であることを、
改めて、理解できたように思います。
子どもたちにとって、安全で適切な環境を整えるのは大人の責務です。
それぞれの立場、役割の中で、責任を持って対策を講じるということは当然の事です。

次回は2月18日です。
ふれあいの里責任者、お泊り保育引率教諭で元担任の寺西佳代子氏、
慎之介が沈んでいく姿を最後に見た篠田ひとみ氏の尋問があります。
被告側証人として、大阪市大の教授からは、
「後知恵バイアス」というものについての説明がなされるようです。

傍聴席も法廷です。
民事裁判の際にいつも来ている
学校法人ロザリオ学園の事件担当者と言われている方が
傍聴席で、白い歯を出して談笑している姿や
近藤惠津子被告の「居眠り」をしている姿からは
事件に対する誠実さなどは感じられず
心が痛みました。

このような些細なことを気にしたくなくても
遺族にとっては、すべてが悲しい現実です。

証人として出廷してくださった方々は、
誠実な方ばかりでした。
被害者参加人として、身の引き締まる思いです。
私も、誠実に向き合います。

今後の刑事裁判の日程

平成28年2月3日(水)から証人尋問が始まります。
公判スケジュールは以下の通りです。

2月3日
(水)
10:00~終日 救助活動に参加した観光客
目撃者
検察側証人
救助活動に参加した観光客
目撃者
救助活動に参加した目撃者
当時のふれあいの里の従業員
救助活動に参加した目撃者
当時のふれあいの里の従業員
2月4日
(水)
10:00~終日  気象台職員
降雨体験者(石鎚山登山者)
河川財団職員
愛媛大学教授
2月5日
(木)
11:00~終日 気象協会職員
同志社女子大学教授 被告側証人
愛媛県内の幼稚園元園長 検察側証人
2月18日
(木)
10:00~終日 マリア幼稚園引率教諭(当時担任)
寺西佳代子
マリア幼稚園引率教諭 
篠田ひとみ
ふれあいの里責任者
大阪市立大学教授 被告側証人
3月3日
(木)
10:00~終日 被告本人尋問
近藤被告、村上被告、越智被告
3月4日
(木)
10:00~ 被告本人尋問
近藤被告、村上被告、越智被告
3月17日
(木)
10:00~ 論告
吉川 意見陳述予定
3月28日
(月)
10:00~ 弁論 

何卒よろしくお願い申し上げます。

H27年12月24日 初公判を迎えました。

    平成27年12月24日
    近藤恵津子被告、村上玲子被告、越智亜里被告の初公判が開かれました。
    不幸にも起きてしまった事故に対して、刑事上の責任はないと全員無罪を主張しています。

    遺族としては、
    この事故が、なぜ起きてしまったのか、どうすれば防ぐことができたのか
    どうすれば、尊い命を守ることができたのか
    考えていただきたいと思います。

    以下、検察の冒頭陳述より。

    罪名:業務上過失致死傷

     
    【Ⅰ被告らの立場】
    被告人近藤は、幼稚園の園長として、園務全体を統括し、
    園児の生命・身体の安全を守る職務を行うにあたり
    他の教諭を監督する立場にあった

    被告人村上は、幼稚園の主任教諭として
    園児の生命・身体の安全を守る職務を行うにあたり
    他の教諭に対して指導・助言し、園長を補佐する立場にあった

    被告人越智は、幼稚園の年長園児の行事であるお泊り保育の平成24年度における
    計画立案者及び進行責任者として、お泊り保育において園児の生命身体の安全を守る職務を行うにあたり
    その生命・身体の安全に十分配慮して立案し進行すべき立場にあった

    平成24年度におけるお泊り保育は、被告人越智が被告人村上に相談しながら計画立案し
    最終的に被告人近藤の了解を得て実施された。

     
     
    【Ⅱ事故状況及び死傷結果】

    1.園児らを遊泳させた経緯
     1)被告人3名は、平成24年7月20日、本件幼稚園の教諭であった
      寺西香代子、篠田ひとみ、別宮瑠美、藤井さおり、石川正子と共に、
      お泊り保育のため、年齢5歳から6歳の年長園児31名を、
      愛媛県西条市中奥1号25番地1所在の宿泊施設「石鎚ふれあいの里」に引率した。

     2)被告人らは、同日午後3時頃から、ふれあいの里の西側を
      概ね南方から北方に流れる加茂川において、園児を遊泳させ始めた。

    2.遊泳場所の状況
     1)加茂川の状況
      加茂川は、石鎚山系から山間部を流れる河川であり、その流域が広く、
      複数の支流が交わっており、ふれあいの里付近のみならず、
      上流の山岳部での天候の変化によって、容易に増水が起こり得る地形である。

      ふれあいの里は、加茂川右岸に面しており
      (上流から下流を見た場合に。右側を「右岸」、左側を「左岸」という。以下同じ)
      本件事故現場は、ふれあいの里北側のグランド前を流れる河川内であって
      同所付近の加茂川右岸には、西向きに下る方面に石積みされた護岸堤防があり、
      南北に2箇所、石段(以下それぞれ「南寄りの石段」「北寄りの石段」という)が
      設置されていて同石段がふれあいの里のグランドから河川への入水口となっている。

      一方、本件事故現場付近の加茂川左岸には河川敷が広がり、その左端にはコン
      クリート擁壁が設置され、その上の主要地方道に続く小道が設けられている。

      
      水深は右岸側が左岸川よりも深くなっており、河床は、岩や石が散開していて
      平ではなく、こけが生えており、成人でも滑ることがある状態であった。

     2)園児らの遊泳場所の状況
      被告人らは、園児を誘導して、北寄りの石段から加茂川に入水させ、
      概ね両石段の間を遊泳場所にさせていた。

      園児らは、加茂川右岸寄りの河川内から左岸の河川敷まで散開して遊泳しており、
      被告人ら引率教諭は、その周辺に点在して園児らを監視していた。

      遊泳を開始した時点で、右岸寄りには園児の胸付近まで浸かるような水深の箇所が
      あった一方左寄りには比較的浅瀬が広がっていた。

    3.加茂川上流域における降雨
     1)平成24年7月20日午前10時頃から同日午後零時ごろまでの間、
      石鎚山周辺の上空を雨雲が通過していた。
     
     2)石鎚山成就社から石鎚山山頂付近にかけて、
      同日午前10時過ぎ頃以降、降雨があり、時には雷を伴う激しいものであった。

     3)松山地方気象台が石鎚山成就社に設置したアメダスでは、
      同日午前9時から午前10時までの1時間に2.0ミリメートル、
      同日午前10時から午前11時までの1時間に3.5ミリメートル、 
      同日午前11時から午後零時までの1時間に0.5ミリメートル、
      同日午後零時から午後1時までの1時間に2.5ミリメートルの降雨が観測された。

     4)黒瀬ダム管理事務所が大平雨量観測所に設置した雨量計では、
      同日午後零時から午後1時までの1時間に1ミリメートルの降雨が
      観測された。

     5)前記黒瀬ダム管理事務所が東之川雨量観測所に設置した雨量計では、
      同日午前10時から午前10時までの1時間に3ミリメートル、
      同日午後零時から午後1時までの1時間に1ミリメートルの降雨が観測された。

    4.園児らの遊泳場所付近における増水
      加茂川上流域における前記降雨の結果、園児らの遊泳場所付近より上流に
      住友共同電力株式会社が設置した細野測水所においては、加茂川の流量が、
      同日午後2時30分の時点では毎秒0.57立方メートルであったものが、
      それから同日午後2時40分までの間に、毎秒6.67立方メートルに増加したことが
      観測された。
      その後、園児らの遊泳場所付近では、同日午後3時10分頃には水の濁りが発生し、
      同日午後、3時38ごろには増水が始まっていた。
    ※当初3時30分としていた時間に対し、被告人らは38分への訂正を求めていながらも
       被告人らの冒頭陳述でも3時30分すぎと主張していました。

    5.事故状況
     1)被告人越智は、前期増水発生の直前頃、
      河川から上がってスイカ割りを実施するため、園児らに出水するよう号令をかけた。
      その際、半数以上の園児及び大半の引率教諭は、
      加茂川左岸寄りの浅瀬から左岸の河川敷上にいた。
      引率教諭及び園児は、被告人越智の号令により、
      それぞれの場所から整列することなく三々五々、北寄りの石段に向けて
      概ね、加茂川を南西方向から北東方向に斜めに渡り始めた。

     2)引率教諭及び園児らが加茂川を横断し始めた頃、前記のとおり、増水が始まり
      引率教諭のうち篠田は、危険を感じて、同人より河川敷側にいた園児及び
      引率教諭に対し河川敷側に戻るよう呼びかけ、それを聞いて寺西及び藤井は、
      篠田と共に園児複数名の手を引くなどして左岸の河川敷に戻ったが、
      他の引率教諭や園児は、なおも北寄りの石段に向けて河川内を移動していた。

     3)そこに上流から濁流が押し寄せ、流れが速くなるとともに、
      引率教諭の顔の下まで浸かるほど水かさが増したため、
      一部の引率教諭と園児らが河川内で身動きが取れなくなり、石にしがみつくなどした。
      そして、同日午後3時38分頃、河川内の北寄りの石段付近まで来ていた被告人越智、
      被害者吉川慎之介(当時5歳)、同園児A(当時6歳)及び同園児B(当時6歳)が濁流に
      よって下流に流された。

     4)前記園児Bは、加茂川左岸に流れ着いて助かり、
      前記園児Aは、ふれあいの里従業員に間もなく救助されたが
      前記吉川は、同日午後4時24分頃、北寄りの石段から下流に200メートル流された
      地点で河床に沈んでいるところをふれあいの里従業員によって発見された。

    6.死傷結果
      1)前記吉川は、同日午後4時24分頃、溺死が確認された。
      2)前記園児Aは、加療約1週間を要する頭部皮下血腫等の傷害を負った。
      3)前記園児Bは、加療約1週間を要する左肘擦過傷の傷害を負った。

     
    【Ⅲ降雨による増水が予見できたこと及び遊泳中止義務違反】

    1.降雨による増水が発生する可能性を具体的に予見できたこと
     1)加茂川上流域における降雨を認識し得たこと

      ア.加茂川上流域の前期3地点における1時間ごとの降水量データは、
        インターネットを通じてリアルタイムで入手可能であった。

      イ.平成24年7月20日、愛媛県内全域に雷注意報が、
        同日午後2時5分から同日午後5時10分までの間
        愛媛県上浮穴郡久万高原町及び同県伊予郡砥部町に大雨、
        洪水注意報が、それぞれ松山地方気象台から発令されていた。

      ウ.同日午前中には、同県西条市内の平野部でも降雨があった。
       
      エ.ふれあいの里周辺には水たまりがあり、
        地面が濡れていて、ふれあいの里の従業員に尋ねれば、
        同日午前中にまとまった降雨があったことを知ることができた。

      オ.同日、石鎚山系には、同県西条市内の平野部から見てわかるほど、
        暗雲に覆われた状態であった。

      カ.その2日前から、加茂川上流域で断続的な降雨があったことを、
        インターネット上によって知ることができた。

     2)加茂川は上流域における降雨により園児の遊泳場所付近において急激な増水が
      発生する可能性を予見できたこと

      ア.河川上流域において降雨があった場合、河川下流域において急激な増水が起こる
        危険性があることは一般的に知られるところであり、インターネットを通じて
        容易に発見できる情報であって、被告人らも、かかる知識を有していた。

      イ.加茂川は、石鎚山系から山間部を流れる河川であり、その流域が広く、
        複数の支流が交わっており、ふれあいの里付近のみならず、上流の山岳部での天候の変化によって
        容易に増水が起こり得る地形であり、そのことは地図を一見すれば容易に知ることができた。

      ウ.ふれあいの里従業員は、加茂川のかかる特性や増水の危険性を熟知しており、
        同従業員と事前に打ち合わせを行うなどすれば容易に知り得た。

      エ.現に、ふれあいの里でお泊り保育等を実施していた他の幼稚園や保育園では、
        あらかじめ担当者等が直前の時期に実地調査に訪れ、ふれあいの里の従業員と
        打ち合わせを行って加茂川の様子を尋ねるなどしていた。

    2.遊泳中止義務違反

     1)前記のとおり、加茂川上流域の降雨の影響により園児らの遊泳場所付近において
      増水が発生する可能性があることを具体的に予見できたのであるから、
      被告人らとしては、遊泳事態を中止すべき業務上の注意義務があった。

     2)被告人らは、上流域の降雨が下流域の増水に繋がることを認識しながら
      それを本件川遊びの実施において念頭に置くことなく、ふれあいの里従業員に対して
      一度も、事前打ち合わせを申し入れず、天候の確認や川遊びの危険性、
      注意点等の問い合わせもせず、インターネットなどで天候や川遊びの危険性について
      自ら調べることもせず、引率教諭間で川遊びの危険性について話し合いをすることも
      なかった。
      
      被告人らは、いずれも、2日前から加茂川上流域における断続的な降雨や
      本件当日の雷注意報、大雨洪水注意報等を十分に調査せずに、
      それらを認識していなかった。
      そして、被告人らは、いずれも、増水が生じる可能性を考慮せず、
      遊泳を中止することなく、園児を遊泳させた。

     
    【Ⅳ遊泳を実施する場合の計画準備義務及びその違反】

    1.急激な増水等が起きた場合には、
      園児らを安全に退避させることが著しく困難な状況となることを予見し得たこと
       前記Ⅲの1.の記載の事実に加え

     ① 園児らの遊泳場所付近の加茂川の河床は岩や石が散開して平ではなく、
       こけが生え、成人でも迅速な移動が困難な個所があること

     ② 園児らがいずれも5歳から6歳で、その行動を統制することが容易ではない
       年齢である上、その遊泳能力も未熟であったこと

     ③ 31名もの園児を、被告人らを含めて、いずれも女性で、
       遊泳能力も特別に高くない8名の引率者のみで監守していること

    2.被告人らに課せられる計画準備義務の内容
      契約にともなう園児の生命身体の安全を確保ないしこれを配慮すべき義務、
      社会生活上、河川に幼児を引率するものの負うべき安全配慮に関する条理に
      基づき被告人らには、以下の計画準備義務が課せられていたものである。

     1)ライフジャケットや浮き輪などの用具を準備し、遊泳開始前に園児らに装着させること
      なお、被告人らは、例えば、当時の財団法人河川環境管理財団
      (現在の公益社団法人河川財団)の子ども水辺サポートセンターに問い合わせれば、
      園児の人数分のライフジャケットを調達することが可能だったものである。

     2)あらかじめ、遊泳実施場所付近を実地調査し、有事の退避法・経路・場所等を
      十分に検討・確認しその情報を引率者及び園児全員に対して周知するとともに、
      実際に増水等の危難が発生対場合には
      各園児や各引率者にあらかじめ定めた退避方法等に従って速やかに退避させること

       ア.前記河川環境管理財団が河川での遊泳の危険性や安全に遊泳するために
         必要な事前準備の内容等についてまとめた冊子(水辺の安全ハンドブック)
         を作成し、インターネットを通じて一般に公開して啓発活動を行なって
         いるなど被告人らが、あらかじめ、河川での遊泳にともなう危険性に
         ついて十分な知識を習得することは容易であり、かつ、そうすべきであった。
         また、河川の濁りが増水の予兆であることは広く知られているところであり、
         川遊びの危険を予見するための基礎知識として、前記河川環境管理財団の
    ホームページなどでも周知されていることから、被告人らが、
         こうした知識を事前に習得することも容易であり、かつ、そうすべきであった。

       イ.ふれあいの里の従業員らは、他の幼稚園や保育園がふれあいの里でお泊り保育
         などを行う場合には事前に実地調査に訪れ担当者と加茂川での水遊びに
         関する打ちあわせを行い

         ア)園児らを遊泳させる場所を決めておく
         イ)左岸の河川敷から主要地方道に上がる小道の存在を教える
         ウ)河川の濁りが増水の予兆になることを教える
         エ)そうした危険を察知するためにも、園児の周辺のみならず
          河川を高所より見渡せる場所に監督者を配置するなどすべきであることを
          助言する
         オ)河川の濁りが出て増水の予兆が見られたときなどには、
          左岸の河川敷に避難するのが安全であることを知らせる
         
        などしていた。
        現に、他の幼稚園や保育園においては、加茂川で川遊びを行うに当たって
        増水の予兆となる河川の濁りを早期に察知するためにも、
        河川全体を見渡せる場所に監督者を配置するなどしていた。
        
        したがって、被告人らにおいても、遊泳実施場所付近を実地調査し、
        ふれあいの里従業員らと打合せを行うなどして、有事の退避方法・経路・場所等、
        具体的には、園児らを河川敷に避難させるなどの退避方法を十分に検討・確認し
        その情報を引率者及び園児全員に対して周知することは十分に可能であり
        かつ、そうすべきであった。

       ウ.さらに、遊泳を当日直前までの降水量等を、本件遊泳場所のみならずその
         上流域についても確認し数日前から当日直前までの降水量等を、
         本件遊泳場所を十分に考慮した上で、園児の遊泳範囲を
         園児であっても有事に迅速な移動が可能な水深の浅い範囲に限定させ、
         河川の濁りの変化等を感知して水の濁り等の増水の予兆が認められた場合には
         直ちに遊泳を中止して退避できるよう、例えばふれあいの里があの護岸上など、
         河川を高所より見渡せる箇所に監督者を配置するなどして
         河川増水の予兆に十分留意するといった準備を整えるべきであった。
        
    3.計画準備義務違反

     1)被告人らは、園児らを遊泳させるに当たり、
      ライフジャケットや浮き輪などの用具を一切用意していなかった。

     2)被告人越智のみが、平成24年4月上旬に1度ふれあいの里に下見に赴いたものの、
      加茂川の水深、有事の退避経路、場所などを自ら確認することも、
      ふれあいの里の従業員らに確認することもせず、
      その後も、有事の退避方法・経路・場所等を確認したり
      引率者間で話し合うことをしなかった。

     3)被告人らは、いずれも園児らの周辺で監視を行ったのみであり、
      河川の濁りの変化等を感知して、水の濁り等の増水の予兆が認められた場合には
      直ちに遊泳を中止して退避できるよう、例えばふれあいの里側の護岸上など、
      河川を高所より見渡せる箇所に監督者を配置しなかった。

     4)被告人らにおいて、前記計画準備義務を尽くしていれば、
      平成24年7月20日午後3時10分頃、
      園児の遊泳場所付近に置いての水の濁りが発生した時点で、
      増水の予兆を認識し得る状況にあり
      例えば、園児らを安全な河川敷に退避させることも可能であったのに
      そのような措置をとらなかった。 

    ・・・・
    2012年7月20日、あの日に何が起きたのか
    真摯に受け止め、真実を見つめていきたいと思います。